WebRTC を使った P2P ファイル共有ソフトは違法か
概要
WebRTC を使った P2P ファイル共有アプリケーションを公開することは果たして著作権的に違法なのかどうかというお話です。
※ 私は法律全般に関して素人です。本記事はそれを踏まえてお読みください。
詳細
WebRTC によってお手軽に Web ブラウザー間で P2P 通信を行えるようになりました。P2P 型のソフトウェアといえばファイル共有ソフトが代表的ですが、このファイル共有ソフトはこれまで著作権を侵害するようなファイルの交換に多く利用されてきたという歴史があります。
国内外を問わずこれまで P2P ファイル共有ソフトを作成した人に対する著作権侵害の訴訟は多く行われてきました。そこで今回はそれらの事例を踏まえながら、昨今登場した WebRTC を使った P2P ファイル共有ソフトを作って公開することは果たして違法なのかどうかを検討したいと思います。
事例 1: ナップスター事件
ナップスターは P2P ファイル共有ソフトとして最も初期のものです。ナップスターも例に漏れず多くの違法ファイルの交換に利用され、1999 年にレコード会社がナップスターを著作権侵害でカリフォルニア地裁に提訴し、最終的に 2001 年の控訴審でナップスター側が敗訴しています。
ナップスター敗訴の理由としてそのアーキテクチャーが関わっています。ナップスターはハイブリッド P2P と呼ばれ、中央サーバーにそれぞれのユーザーが公開しているファイルのファイル名がインデックスされています。ユーザーは中央サーバーに「自分が欲しいファイルを誰が持っているか」を問い合わせ、その応答をもとにファイルを持っている人にダウンロードのアプローチをかけます。
このアーキテクチャーの場合、中央サーバーには「どのようなファイルが流通しているか」の情報が集約されます。つまり違法ファイルが大量に流通している場合、中央サーバーを運用している人はそのことを把握しているはずだと見なされます。そしてそれを知っていながらサーバーの運用を続けた場合、著作権侵害の幇助になり得るようです。
※ ただしこの判決は米国でのものだという点に注意
事例 2: グロックスター事件
これに対してグロックスターはピュア P2P と呼ばれるアーキテクチャーを取るファイル共有ソフトです。ピュア P2P はハイブリッド P2P とは違いファイル名をインデックスする中央サーバーを持たず、その役割は P2P ネットワークに参加しているユーザーが担います。
このアーキテクチャーの場合グロックスターを配布している人はどのようなファイルがネットワークに流通しているかについて管理できません。よって著作権侵害の幇助を問いづらそうです。事実、グロックスターも米国で裁判が行われましたが、一審二審はグロックスター側が勝訴しました。
しかし最高裁では判決が逆転し、グロックスター側が敗訴しました。その理由として、グロックスターを配布するときの態度が問題だったということです。グロックスターの配布者は「グロックスターを使えば有名な音楽にアクセスできる」と宣伝したり、ユーザーからの著作物の探し方などの質問に答えていたりしたそうです。このような態度により「そそのかし」の責任を問われ、敗訴のひとつの原因になったようです。
※ これも米国の事例
事例 3: ファイルローグ事件
日本の例を見てみましょう。ファイルローグはナップスターと同様に中央サーバーを立てるハイブリッド P2P 型のソフトウェアであり、MMO 社によって開発されました。
日本ではカラオケ法理という判例が著作権侵害裁判でよく参照されるそうですが、ファイルローグ事件もカラオケ法理に照らし合わせた結果、違法という判決になりました。
理由として、やはり中央サーバーを立ててファイル名を管理していること、そしてあまりにも違法ファイルの流通の割合が高かったことが挙げられています。
事例 4: Winny 事件
そして有名な Winny 事件です。Winny はグロックスターと同じく中央サーバーを立てないピュア P2P 型のソフトウェアです。
Winny は 2004 年の京都地裁に始まり最高裁まで争いましたが、2011 年に Winny 側の逆転勝訴で幕を閉じました。
Winny 側勝訴の理由として、配布時に著作権侵害の用途に利用しないことを再三注意していたことが挙げられています。これにより作者に著作権侵害幇助の意図がなかったと判断されたようです。
では WebRTC はどうか
これまでの事例をまとめると、 作者に著作権侵害の意図がないことを前提として
- 中央サーバーを持たない ピュア P2P 型であること
- 違法行為に用いないことを注意し続けること
が重要なポイントであることが分かります。
さて WebRTC では一般的に相手と通信を始めるためにシグナリングサーバーが必要になります。シグナリングサーバーは「誰がネットワークに参加しているか」を管理していると言えます。
普通は「誰が参加しているか」だけでその人が違法ファイルをやり取りしているかは判断できないので、一般的な感覚ではそれを理由に違法だと判断されることはないように思います。
まとめ
作成した P2P ファイル共有ソフトが著作権侵害に問われないようにするためには
- 中央サーバーを持たない ピュア P2P 型であること
- 違法行為に用いないことを注意し続けること
そして何より
- 作者に著作権侵害の意図がないこと
が重要である
参考
- 野口祐子 デジタル時代の著作権 ちくま新書 2010
- 井上雅夫 ナップスター事件とファイルローグ事件の比較 プログラム関連著作権
- カラオケ法理 - Wikipedia
- Winny 裁判の最高裁判決文